Whirlwind



(原案・設定・構想)
Aileen・kujidon・shima・瑠衣
(拍手構想)  瑠衣



番外編

「クラブ顧問」 紫織の策略 part1






4月と言えば教師の異動があり、クラブの顧問も代わる。
紫織は、この時期を密かに待ち望んでいた。
もう半年近くも前から。

何故なら紫織は、目当ての彼と同じクラブの顧問になろうとしていたのだ。
その彼は勿論、紅学園の速水真澄。
昨年、速水は剣道部と女子バスケ部を兼任していた。
彼女は其処に目をつけたのである。




午後の職員会議が終わり一息つこうと教師達が動き出した時、紫織が席を立つと声をかけた。

「皆さん。もう少し、お時間をいただきたいのですが」

突然、発せられた紫織の声に教師達の動きが止まった。
一瞬にして、その場にいた教師達に緊張が走る。

―――今日は、何を言い出すのかと

紫織は、教頭の席の前まで優雅に歩いていく。
まるで其処は、彼女だけの舞台であるかのように。
全ての教師が見渡せる場所に姿勢良く立つと、彼女は語りだした。


「お話するのは他でもありません。そろそろ、新年度のクラブの顧問を決定しないといけない時期ですよね。それで私、僭越ながら考えさせていただきました」

その言葉に同僚教師達は耳を疑う。
今まで彼女は、この話になると自分の好きな華道部に真っ先に名乗りを上げ、他の教師達のことなど気にもとめず後はご勝手にと席を離れていたのだ。
それなのに、今年に限って考えたと言う。
一体、彼女が何を考えたのか皆一斉に気になりだす。

紫織は手に持っていた一枚の紙を広げると、職員室の端に座っている教師達にも聞こえるような大きな声で読み上げ始めた。

「順不同なのですけど、お一人ずつ発表させていただきますわね。まずは麻生先生。お料理が上手ですので料理クラブね」

紫織は舞のほうを見て微笑む。
舞は嬉しそうに頷いた。

「桜小路先生は、今年も男子バスケ部をお願いしますね」

有無を言わさない視線を向けられた桜小路は、「はい」と返事するしかなかった。

「姫川先生。あなたは何でもお出来になるようですから、女子バレー部をお願いします」

「!!!」

亜弓は驚愕の表情を浮かべ、すぐに口を開きかけたのだが、一瞬の隙も与えぬように続く紫織の言葉に遮られてしまう。

「それから、間先生は写真部。○○先生は……」

延々と全てのクラブの顧問を発表していく紫織に、教師達は呆気に取られている。
いつの間にか勝手に決められてしまっているのだ。
一言の相談もなしに。
昨年と同じクラブを持つ者もいれば、全く畑違いのクラブに決定されている者もいる。
それでも、誰一人として拒否する言葉を口に出す者はいなかった。


そして、最後の発表が職員全員を一番驚かせることになる。

「最後に私ですが、今年は、女子バスケ部の顧問とさせていただきます」

静まり返った職員室を紫織の異様な言葉が包み込む。

―――今、彼女は何と言った?

お互いの顔を見合わせながら小声で話しかける教師達。
それもそのはず彼女は、この学園に赴任してから文化部の顧問をずっと続けていたのだ。
今年に限って運動部の顧問になると言う。
驚きを隠すことが出来ない教師達を尻目に、紫織は当たり前のように言い切った。

「これが最終決定になります。学園長には許可を頂いていますので、皆さん責任を持って指導をよろしくお願いしますね」

その言葉を最後に紫織は、さっさと自分の席に着くと何事も無かったように仕事を始めた。

学園長による最終決定は覆ることがないだろう。
その場にいた教師達は溜息をついたり、安堵したりと表情はさまざまだ。
彼女は、いつも突拍子もない行動に出るので同僚教師達には予測がつかない。
これには何か裏がある。
その場にいた者は、皆そのように考えていた。




そんな中、紫織から遠く離れた席に座る亜弓は大きな溜息をつく。
彼女はダンスが得意だったので、ダンス部の顧問になりたかったのだ。
オンディーヌのダンス部といえば、それなりの実績があり都大会に何度も出場し優勝している。
しかし、紫織に勝手に女子バレー部の顧問だと決められてしまった。
さすがの亜弓も落胆の表情を隠すことが出来ない。
新任だから何も言えない立場ではあるが、ベテランなら希望くらいは聞くような心遣いがあってもいいように思う。
本当に彼女は、自分中心でまわっているらしい。
顧問のことを諦めた亜弓は、ふと考えた。

―――マヤは何のクラブになるのかしら

今夜、電話をしようと思う亜弓だった。




紫織は、すべてが上手くいったことに一人微笑む。
練習試合に託けて紅学園に堂々と足を運ぶことが出来るのだ。
彼が女子バスケ部の顧問をしていることはわかっている。
クラブの顧問同士で話も出来るし一石二鳥だ。
すぐにでも練習試合の申し込みの電話をしないと。
善は急げと言わんばかりに紫織は早速行動を起こす。


「はい。私立紅学園、高等部でございます」

「オンディーヌ学園の鷹宮と申します。いつもお世話になっております。そちらの女子バスケ部と練習試合をさせていただきたいのですが、ご都合はどうかと思いまして」

「こちらこそお世話になっております。担当の顧問と代わりますので、しばらくお待ちください」

紫織は保留音が流暢に流れてくると、そわそわしながら相手が出てくるのを待つ。
電話口の女性の言葉が、彼女の耳にこびりついたからだ。
「担当の顧問」と言えば一人しかいない。
次に電話口に出るのは彼だと期待していた。
受話器に耳を押し付けて。


「お待たせいたしました。ただ今、バスケ部の顧問は席を外しているのですが、別の教師に確認しました所、練習試合の件、喜んでお受けさせていただきますとのことでした」

紫織は電話口の声が先程の女性の声と同じだったことに落胆する。
彼が出れば練習試合の話だけでなく他の話も出来ると思っていたのだ。

「快く引き受けていただきありがとうございます」

紫織は先程より幾分トーンの下がった声で無難に礼を言う。

「日時は○○日、△△時より紅学園の体育館で行なうということで宜しいでしょうか?」

「ええ。それで結構です。○○日にそちらに伺わせていただきますのでよろしくお願い致します」

「はい。こちらこそよろしくお願い致します。それでは失礼します」

紫織は電話を切ると、ホッとひと息ついた。
もしかしたら速水と話が出来るかもしれないと淡い期待を持っていたのだが、どうやら間が悪かったらしい。
それでも、練習試合を申し込んだことで速水に一歩近付いたことは確かだった。
彼女の計画は、まだ始まったばかりである。





<continue>





2007年1月21日   written by 瑠衣






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