Whirlwind



(原案・設定・構想)
Aileen・kujidon・shima・瑠衣
(拍手構想)  瑠衣



第3話 番外編 (3)

オンディーヌ学園の放課後






今日の授業は終わり生徒達がクラブ活動の練習に励んでいる頃、会議室では重大な会議が行なわれていた。
と言っても彼女達だけの完全に私用な会議であったのだが。


「鷹宮先生。お忙しいのにわざわざ来ていただいて、ありがとうございます」

舞は丁寧にお辞儀をすると紫織に椅子を用意した。
紫織は舞の用意した椅子に腰掛けると優しく声をかける。

「いいのよ。舞先生。それより、どうしたの? 急に相談にのって欲しいなんて」

舞は視線を床に落とすと、ボソボソと話し始めた。


「今日、昼休みに桜小路先生と屋上でお弁当を食べていたんです」

「まあ。やるわね。舞先生!」

紫織は彼女が桜小路と上手くいっているのを聞き喜んだ。
しかし、舞の表情は何故か硬い。
相談に乗って欲しいと言われたからには何かがあるのだろうと紫織は気付くと幾分表情を引き締める。
言いにくそうな舞の背中を優しく押し話しやすいように問いかける。

「どんなことでもいいのよ。話してくれるかしら?」

紫織の言葉に心なしか気が楽になった舞は、少し潤んだ瞳で紫織を見つめるとゆっくりと話しだした。

「それが・・・一緒にいる時に彼が遠くの方を見つめて上の空になったんです」

「そうなの。何故かしら?」

紫織は軽く首を傾げる。
舞は、その時の事を思い出し再び怒りが込み上げてくる。
眉間に皺を寄せ、拳を握り締めた。

「歓迎会の彼女のことを思い出していたんです!!」

舞は溜まりに溜まったものを吐き出すように思わず叫んだ。
紫織は、舞の話から自分にとっても忌々しい女の姿が頭に浮かぶ。
一瞬にして、あの日の腹立たしい場面を思い出し紫織も叫んでいた。

「なんてことなの!! 速水先生が抱きかかえていたあの新任教師のこと?」

「そうです。気になるって言うんです」

舞は悔しさから唇を噛み締めている。
好きな人の側にいるのに違う女が気になると言われれば誰もいい気はしないだろう。
舞の気持ちが手に取るようにわかる紫織は励ますように優しく話しかける。

「あんな子のどこがいいのかしら? よく気が付く可愛い女性が側にいるのに」

「私、絶対にどこの馬の骨ともわからない女に彼を渡したくないんです。どうしたらいいですか?」

「そうね」


紫織は、目を瞑って考え始める。
今の時点では、オンディーヌの教師で彼女の名前を知る者はいないはず。
それに彼女は、よその学園に勤務しているし桜小路の存在は知らないだろう。
どう考えても毎日のように彼と顔を合わせる機会がある舞は有利だ。
桜小路に舞の存在が当たり前だと思わせる必要がある。
身近に居すぎてわからないのではなく、桜小路にとって彼女がなくてはならない存在になるように・・・。


紫織は、目を開けると恋に悩む彼女に優しく提案する。

「舞先生。こんなのはどうかしら?」

「はい。何ですか?」

「桜小路先生に名前で呼んでもらうのよ。舞って」

「ええ〜っ。そんなの恥ずかしいです」

舞は真っ赤になると両手で頬の赤みを隠す。

そんな彼女の反応を紫織は可愛いと思う。
紫織にとって頬を染める仕草は女の武器の一つに過ぎない。
そして初心な考えのままでは男を手に入れることが出来ないことを知っている。

「何を言っているの。桜小路先生が彼女のことをどんどん好きになってもいいの?」

「そんなの嫌です!」

舞は頭を左右に振って叫んだ。

紫織は可愛い妹分が恋に勝つ為に一つ一つ教えていく。

「だったら彼にとってあなたが身近な存在になること。そして、なくてはならない存在になることね」

「はい」

舞は真剣な表情で頷きながら聞いている。

「名前で呼ぶってことはそれだけで親しみが深くなるわ。桜小路先生があなたの名前を呼ぶ度に彼の心の中で知らず知らずのうちに、あなたの存在が大きくなってくるはずよ」

紫織は最後の言葉に確信を込めた。
舞なら桜小路の側にずっといることは可能だ。
出来るだけ二人で過ごせる時間を確保し、いつでも手の届く距離にいればいい。
速水のように別の学園にいるわけではないのだから、どんどん仕掛けるだけで状況は進んでいく。
そして、既成事実を増やしていけば桜小路の逃げ場も無くなるだろう。

紫織は少し、舞が羨ましいと思った。
毎日のように好きな人に会える環境なのだから。
しかし、紫織もただ待っている女ではない。
舞の恋に感化され速水に対してもっと仕掛ける意欲が湧いてきた。

(私も彼の全てを手に入れて見せるわ!!)


舞は紫織に相談したことで先程まで抱えていた不安が無くなり笑顔になる。
あの教師に負けないと自信が漲ってきた。

「わかりました。桜小路先生に名前で呼んでもらうように言ってみます」

「早いほうがいいわね。彼が何時どこで彼女と偶然に再会するかわからないから」

舞は力強く頷いた。

「はい。鷹宮先生、ありがとうございました」

「あら、いいのよ。それより今日からは、名前で呼んでくれるかしら?」

「えっ? 紫織先生ですか? いいんですか?」

舞は紫織の申し出に驚く。
紫織は鷹宮家の一人娘で自分とは住む世界が違う人なのだ。
こうやって相談にのってもらったり、仲良くしてもらえるのが不思議なくらい。

「いいわよ。あなたとは仕事以外でも仲良く出来そうだから」

「嬉しいです。紫織先生にそんな風に言っていただけるなんて」

舞は頼りになる姉のような紫織に微笑んだ。

「これからもよろしくね。舞先生」

「紫織先生、よろしくお願いします」

紫織に丁寧に礼を言い、会議室を後にした舞は急いで体育館へと向かった。
クラブ活動で指導している桜小路を待つために。





<END>





2006年06月12日   written by 瑠衣






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