Whirlwind



(原案・設定・構想)
Aileen・kujidon・shima・瑠衣
(拍手構想)  瑠衣



第3話 番外編 (2)

オンディーヌ学園の昼休み





午前中の授業を終え席に着いた桜小路の元に舞がやってきた。

「桜小路先生! お弁当どうぞ!」

「舞先生。いつもありがとう」

爽やかな笑顔で礼を言う桜小路に舞は胸がときめく。
彼女は頬を赤く染めると手作りの弁当をそっと手渡した。


新任教師でありながら着任した次の日から甲斐甲斐しく桜小路の世話をする舞を見て、他の教師達は快く思っていなかった。
桜小路といえば、オンディーヌで唯一の若いハンサムな教師として、同僚教師や生徒達から人気がある。
彼のことを密かに狙っている女性教師は沢山いたのだ。
それなのに舞は、あっさりとその場所を手に入れ奥様気取りの毎日を過ごしている。
何と言っても彼女のバックには鷹宮紫織がついているので、誰も下手に動くことが出来なかった。

今日も昼休みの時間が始まると彼女はすぐに桜小路の元へと駆け寄った。
朝、紫織と先日の歓迎会での話をしていた舞は桜小路のことが気がかりだったのだ。
なぜなら、あの日の彼は速水が抱きかかえていた新任教師に目を奪われている。
彼女のことをどう思っているのか探りを入れたい舞は、桜小路を屋上へと誘う。

「桜小路先生。今日はいいお天気なので、屋上でお昼を食べませんか?」

「そうだね。たまには外で食べるのもいいな」

「ええ。行きましょう」

二人は、舞が作った弁当を抱えて屋上へと足を運んだ。



オンディーヌ学園は近隣の町を一望することが出来る高台に建てられていた。
屋上にはベンチが備え付けてある。
生徒達や教師が息抜き出来るようにと配慮されたものだ。
4月は、新入生は勿論のこと上級生達もクラス替えで友達とクラスが変わることもあり、屋上まで足を運ぶ生徒達はいない。
自分達のクラスでお弁当を食べたり、学食へ行くのがほとんどなのだ。

屋上に足を踏み入れた舞は、誰もいないことを確認すると学園から一番良く景色を見渡せるベンチに腰をかけ桜小路にも促した。

「さあ、桜小路先生も座ってください」

「ありがとう」

肩を並べるように座った二人は、包みと蓋を開けると揃って手を合わせた。

「いただきま〜す」

「いただきます」


早速お弁当を食べ始めた二人。

「雲ひとつない青空で気持ちいいですよね」

仕事場での昼食なのに大好きな彼とピクニック気分が味わえて舞は幸せいっぱいだ。

「風もなくて陽射しも温かいし、ここが学園だって忘れそうだよ」

「本当ですね」

「ここに勤めて何年にもなるけど、こんな景色を見ることができるなんて知らなかったな」

桜小路は屋上からの景色の良さに満足すると一口、二口と箸が進みはじめ美味しそうに食べている。
二人の間には穏やかな空気が流れていた。


弁当の中身を半分まで勢いよく食べていた桜小路が、急に箸を置いた。
そして、遠くを見つめたまま小さく溜息をつく。

となりにいた舞は、その溜息に気付くと彼の弁当を覗き見る。
彼の苦手なおかずでも入れていたのかしらと。
舞は彼に初めて手作りの弁当を渡した時に好き嫌いはないかを確認していた。
「ありがとう。特にないよ」と言っていた彼だが、苦手なものがあったかもしれない。

不安になった舞は、恐る恐る問いかける。

「桜小路先生。もしかして、今日のおかずの中に嫌いなものが入ってましたか?」

別のことで考え事をしていた彼は、舞に話しかけられ一気に現実に引き戻される。

「えっ? あっ! ゴメン。ゴメン。ちょっと考え事してたんだ。嫌いなものはないよ」

「良かったぁ。急に箸が止まって溜息ついたから・・・」

「ほんとにゴメン。舞先生のお弁当、いつも美味しいよ」

彼からの褒め言葉にパッと笑顔になった舞は、溜息の原因が知りたくて聞いてみた。

「そうですか。それならいいんだけど。・・・何か悩み事でもあるんですか?」

「どうして?」

桜小路は心当たりがないという感じで首を傾げた。

「だって。・・・溜息ついて遠くを見つめたまま、心ここに有らずなんですもの」

「心配かけてしまったね。たいしたことじゃないよ。歓迎会の日のことを思い出していたんだ」

彼の言葉にやはりあの日のことが気になっていたんだと舞は確信する。
舞の脳裏には桜小路が見つめていた新任教師の顔が浮かんだ。

「何が気になるんですか?」

「あの日、酔いつぶれた紅学園の新任教師の彼女。大丈夫だったのかなと思って・・・」

桜小路は、あの時と同じように心配そうに彼女への思いを馳せている。

「彼女、速水先生が送られたんですよね。噂で聞いたんですけど彼は冷血漢で女性には興味を示さない人だって。美貌を兼ね備えた鷹宮先生がお誘いしているのに、いつも断っているそうですよ。そんな人が子供のような彼女を酔っているからって、どうこうするとは全く思わないんですけど?」

「それは僕も知っている。だけど・・・あの日からずっと気になるんだ。彼女のことが・・・」

「大丈夫ですよ。私、初めて速水先生を見たんですけど紳士に見えましたから」

「そうかなあ」

再び彼女のことを考え始めた桜小路を自分の方へ引き戻すように舞は声をかける。
これ以上、目の前であの新任教師のことに物思いに耽られるのは我慢ならなかったのだ。

「それより、先生。早く食べないとお昼休みの時間が終わっちゃいますよ」

舞の言葉に桜小路は慌てて腕時計を見た。

「本当だ。急いで食べないと」

ハイペースで食べ始めた桜小路を舞はじっと見つめたまま考える。
先程、彼女のことを考えていた彼の目は恋をしていた。

(早速、鷹宮先生と協力した方がよさそうだわ。彼の心の中は、あの忌々しい新任教師のことでいっぱいみたい。放課後に相談しないと・・・)

桜小路が彼女のことが気になって上の空になることを知った舞は、彼を渡さない為ならどんなことでもするわと強く心に誓うのであった。





<END>





2006年06月12日   written by 瑠衣






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