Whirlwind



(原案・設定・構想)
Aileen・kujidon・shima・瑠衣
(拍手構想)  Aileen



番外編

The Secret Garden 前編






「迷っちゃった・・・」

生来のドジに方向音痴までもが加わっているようで、マヤは紅学園で迷子になってしまった。
しかし、彼女にばかり責任があるわけではない。
とにかく紅学園は、馬鹿でかいのだ。
正門を入ったすぐそこは中庭で、緑が多く、生徒達の憩いの場になっていた。
そこも、まさしく馬鹿でかい庭のようで、到底中庭とも言い難いほどの広さであった。
その中庭を突っ切ると、正面に中等部、高等部合同の施設を兼ね備えた校舎が。
そしてその正面の校舎から向かって右に中等部の、左に高等部の校舎があった。
外観は美しいシンメトリー、しかもどの教室からも、その緑深い中庭が一望できた。





マヤは水城に、中等部のとある教諭に届け物を頼まれた。
彼女は初めてのおつかい気分で、いそいそと中等部の職員室に出向くこととなった。
しかし生憎、その教諭は中等部の小ホールで吹奏楽部の指導中。
小ホールに行ったら行ったで、今度は資料室に移動した・・・と。
結局、職員室→小ホール→資料室→やはり職員室→etc・・・
お役所の如く、まさしくたらい回し。
様々な場所に足を運んだが、とうとう自分の居場所まで判らなくなってしまった。
事の顛末は、以上の通り。
そして、今マヤがうろうろしているのは、中等部の小さな中庭。
花壇に色とりどりの花が咲乱れ、いつもなら心癒される風景かもしれない。
だが、この状況では、そんな風景をのんびりと眺めてはいられない。
最後に教えられた場所は、どこだったか・・・
マヤは途方に暮れていた。
行き先さえ、判らなくなってしまったからだ。
きょろきょろと辺りを見渡すと、視界の端になにやら建物が見えた。
よく見るとそれは建物ではなく、どうやら温室のようだった。

(まさか、あれって・・・)

マヤは、まことしやかに囁かれていた噂を思い出す。
噂では月影学園長が、ことのほか大事にしている温室で、花の世話も一切他人には任さない・・・と言う話だった。
どんな花があるのか、それすら誰も知らない。
これも噂だが、無断で入った教師が、次の日から登校してこなかったとか・・・
おそらくは学園長の差し金だとか、なんとか。
あくまで噂の段階であるが、それでもいわく付きの温室。
恐れて、誰も近寄るものはいないという。

(うわ〜、あたしって、どこまでもついてないのね)

恐いもの見たさだけで、せっかく着いた教職を退く気はなかった。
マヤは見なかった振りをして、そっとその場を離れようとした。
彼女が踵を返そうとした、その時。
人影が温室の側で動いた。

(えっ・・・?)

もしや月影ではないかと、恐る恐る目線で確認する。
だが、それは・・・
遠目に見ても、はっきりと判る長身の男性。
スーツ姿が、イヤミなくらい似合う人。

(なっ?なんで速水先生が?)

マヤは事の成り行きを、ただ呆然と見守っていた。
速水は、いつもとなんの変哲もない様子だった。
しかし、いつもと違う所があるとしたら、それはどこか表情に精彩さを欠いている点だろうか。
それにしても、彼がこんな場所に、いったい何の用があるのか。
中等部に所用といっても、温室に用事があるとは思えない。
マヤの疑問をよそに、速水はごく自然な仕草で温室の扉を開いた。





まるで都市伝説のように、密やかに囁かれる、禁断の花園へと・・・






<continue>





2006年08月28日   written by Aileen






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