Whirlwind



(原案・設定・構想)
Aileen・kujidon・shima・瑠衣
(拍手構想)  Aileen



番外編

The Secret Garden 後編






吸い込まれるように温室に入っていた速水を、マヤはただ傍観していた。

何故?どうして?

そんな疑問で頭がいっぱいだった。
ただでさえ、妙な噂のある温室である。
教職員はおろか、生徒でさえめったに近づかないと言う。
もし、噂が真実でないにしても、速水がここに来る理由が分からなかった。
単純に気分転換かとも思うが、それでもわざわざ中等部まで足を運ぶほどではないだろう。

(まさか・・・温室の花を世話しているのは速水先生?いいえ、それこそまさかね。)

単純に思いつき、思いっきり否定する。
どうも“花”と“速水”がマヤの頭の中で結びつかない。
ただでさえ疎いマヤは温室にばかり気を取られ、背後の気配になどまったく気づかなかった。
温室を凝視し、?マークを飛ばし続けるマヤの肩が軽く叩かれる。

「ひやぁ〜!!」

思ってもみないその振動に、マヤは思わず素っ頓狂な声を出した。
慌てて口を塞ぎ、がばっと後ろを振り返る。
勢いで体がふらつき、倒れそうになるのを必死に踏ん張り、相手を認知しようと目を凝らす。
「・・・つき・・・かげ・・・あっ・・・理事・・・学園長・・・」
おどろおどろしい噂の、まさしく渦中の人の出現に、マヤはしどろもどろ。
それは、いかなる時にも黒衣を纏う、紅学園の学園長を兼任する、理事長の月影であった。

「あの温室にはね、私の人生の総てが詰まっているのよ」

彼女はふわりと笑みを浮かべると、目をぱちくりさせているマヤに、そっと呟く。
「無条件で人の愛を信じ、疑うことなどなく過ごしたあの幸せな日々・・・」
まるで独白のように、月影は言葉を綴る。
「そして・・・」
刹那、一陣の風が、月影の右半面を隠していた髪をふわっと持ち上げた。
「!!」
マヤは月影のその隠された半面にある、目を背けたくなるほどの傷跡を目の当たりにする。
月影はやんわりとした仕草で、その露呈した古傷を再び隠した。
「夫の一蓮が亡くなった、あの日・・・ズタズタになった私の心を慰めてくれたのも・・・やはり、この温室の花々でした・・・」

そういえば聞いたことがある。
夫が亡くなる原因でもあった不慮の事故に、月影も巻き込まれたと。
そして一命は取り止めたが、大きな傷が顔に残ったという。
月影は残された傷を夫の愛の証と思い、整形手術もせず、現在に至っている。
突然聞かされた月影の過去に、マヤは言葉を挟むことすら出来ずにまんじりとしていた。

「温室の花に、私はいつも癒されています・・・きっと速水先生も同じだと思いますよ」
「えっ?」

唐突に出てきた“速水”の名に、マヤは驚く。
その言葉の謎を明かそうと、一歩踏み出すマヤ。
しかし頭の中は真っ白で、なかなか最初の一言が出ない。
そんな彼女を尻目に、月影は何処か不敵な笑みを浮かべる。

「孤独を愛すると言う人間は、本当は人一倍孤独に弱いものです。そう、多分彼も・・・」

それは、速水を示唆しているのだろうか。
月影の真意が理解出来ないマヤは、漫然とするのみだった。

(まさか・・・速水先生が孤独で、癒しを必要としていると言うの?)

やがて、月影はゆっくりとその場を立ち去る。
後に残されたのは、にわかには信じられない真実に、ただ呆然とするマヤだけだった。





<END>





2006年09月26日   written by Aileen






* back * * index *