Whirlwind (原案・設定・構想) Aileen・kujidon・shima・瑠衣 (本編構想) 瑠衣 第5話 クラス委員 少しずつではあるが生徒達との距離が近付いているとマヤは感じていた。 その貢献者は何と言っても真島に他ならないのだが。 今日はB組のクラス委員を決めなければならない。 はたしてすんなりと決まるのだろうか? マヤは不安でいっぱいになる。 (普通は、みんなやりたがらないのよね。決まらなかったらどうしよう?いっそのこと『あみだだくじ』で決めようかしら・・・) ついつい悪い方に考えてしまうのが彼女の癖らしい。 気の進まぬまま重い足取りで教室へと向う。 マヤは簡単に連絡事項を伝えると、早速、本題を切り出した。 「今日はクラス委員を決めたいと思います。誰か立候補する人はいませんか?」 彼女の一言で一瞬、教室はシーンと静まり返る。 が、すぐに生徒達のいろいろな声が聞こえてきた。 「そんなの、いるわけないよ」 「めんどうくさい」 「誰もやりたくないよねぇ」 しばらくの間、あちこちから漏れていた声に耳を傾けていたマヤは、小さく溜息をつく。 (・・・そうよね。やっぱりここは、あみだかしら?) マヤが俯いてどうしようか考えていると「先生!」と大きな声で呼ばれたので慌てて顔を上げた。 「は、はい」 マヤは急いで返事をする。 生徒達に目を向けると一人席を立ち自分の方に視線をおくる彼を見つけた。 「ま、真島くん?」 「僕が立候補します」 胸を張り、凛とした顔つきでマヤを見ている。 「えっ。いいの?」 教師が言う台詞ではないだろうが彼女は聞いてしまう。 「みんなさえ良ければですが・・・」 真島は教室をくるりと見回した。 「真島ならピッタリだ」 「頼むぞ、真島」 「さすが、真島くんね」 どうやら彼は友達からも信頼されているようだ。 (水城先生のおっしゃっていた通りね) 「クラスのみんなさえ良ければ真島くんにクラス委員を任せたいと思います。いいですか?」 「は〜い」 その後、彼の進行でクラスの他の係もスムーズに決まっていく。 マヤは真島の横に立ち自分よりもテキパキとしたその手腕を見て驚いていた。 「じゃあ、今日のホームルームは、これで終わります」 もっと梃子摺るかと思っていたクラス委員が、すんなりと決まりマヤは安心した。 先程まで気が重かったのが嘘のように気分は晴れ晴れとしている。 ピンチから救ってくれた真島に、こっそりとお礼が言いたくてマヤは雑用をお願いすることにした。 「それでは真島くん。悪いのだけど、この提出物を職員室まで持っていくの手伝ってくれるかしら?」 「はい。わかりました」 職員室までの道のりを並んで歩きながら、マヤは真島に話かけた。 「真島くん。さっきはありがとう。クラス委員、決まらなかったらどうしようってずっと悩んでいたの。おかげで一つ安心できたわ」 「いいえ。僕が好きでしたことですから、気にしないでください」 真島はマヤに笑顔を向けると急に横道にそれ人気の無い所へ歩いていく。 職員室とは違う場所に行く彼を不思議に思いながら後をついてきたマヤは、真島が歩くのをやめたので声をかけた。 「真島くん。どうしたの? こんなところで立ち止まって」 「先生。話があります」 真島は身体ごと振り返ると真剣な表情でマヤを見つめる。 (何か相談でもあるのかしら?) 改まった様子の彼にマヤは大人の余裕を見せると優しく聞いてみた。 「何かしら?」 真島は少し間を置くと、マヤの目を見つめたまま口を開いた。 「僕がクラス委員に立候補したのは・・・先生のことが好きだからです!!」 「えっ?」 マヤは驚いて目を見開いたまま立ちつくしている。 真島は彼女の驚きを気にすることもなく、言葉を続けた。 「あぶなっかしい先生を見ていられなくて・・・。先生は僕が守ります!」 突然の、それも生徒からの告白に、マヤは真っ赤な顔になると頭の中はパニックに陥った。 恋愛経験の無いマヤにとって初めての経験なのだ。 (こ、これって・・・告白なの?) 生徒が教師に恋する話は聞いたことはあるが、自分がそんな風になるとマヤは思っていなかった。 (ちょっ、ちょっと待って・・・) マヤの頭の中はフル回転していたが、恋愛に疎い彼女だけに答えは出てくるはずもなく。 彼女の思考はオーバーヒートして、とうとう気絶してしまう。 「先生!!」 意識がなくなり倒れかけたマヤを真島は、さっと手を出しすぐに支える。 何度か声をかけてみたが、マヤに反応はない。 真島は気絶したマヤを抱きかかえると急いで保健室へと運ぶ。 大人の女性でありながら、彼が簡単に抱えられるほどマヤは小さく軽い。 真島は満足そうな顔で胸を張って堂々と早足で歩いていく。 マヤに告白した『僕が守ります』という言葉を実行するように。 すれ違う生徒達の視線も全く気にすることなく。 保健室に着くと、青木が何事かと顔を出す。 生徒に抱きかかえられたマヤを見て驚くと、すぐにベッドに寝かすように促した。 「どうしたんだ? 北島先生は?」 「急に倒れられたんです」 真島は自分の告白のことは伏せたまま倒れたことだけを伝える。 とりあえず彼は、マヤをベッドに寝かすとその横にある椅子に腰をかけ心配そうに様子を伺っている。 青木は一通り彼女の様子を確認すると、大丈夫だと真島に伝えた。 安心した彼は、それでもマヤが気付くまで側にいようと座ったままだ。 そんな真島を青木は不思議に思いながら、今日のところは帰るように諭す。 「生徒が遅くまで学園にいるといけないから、もう帰りなさい。彼女は私が送っていくから」 「わかりました。気が付かれたらお大事にとお伝えください。失礼します」 真島はマヤへの思いを伝えたことで、明日から二人の関係がどうなるのか気になっていた。 マヤへの気持ちは簡単に変わることがない。 どういう結果になろうとも、アプローチは続けるつもりだ。 これからは年上の女性を守れるような男になろうと決意して彼は家へと帰った。 一方、職員室では。 ホームルームも終わり、教師達が職員室へ帰ってくる中、速水は前の席の彼女が帰って来ないのを不思議に思う。 速水はマヤのことを何気ない様子で水城に聞いてみた。 「水城主任。北島先生は、まだ席に戻ってきていないようですが何かあったのですか?」 「北島さんなら保健室で休んでいるそうよ。なんか急に倒れたらしいの」 と水城は青木から連絡があったことを簡単に伝える。 それを聞いた速水は、手元の書類を持つと、すっと席を立った。 いかにも何処かに用事があるような素振りで職員室を出ていく。 そして目的の場所とは違う方向に歩いていくと階段を下り、今度こそ足早に保健室へと向かう。 速水はわざと遠回りをしていたのだ。 彼女のことを心配して覘きに行ったと気付かれるのが嫌で。 速水は保健室の前に着くと軽くドアをノックした。 しばらく待つが返事がない。 仕方がないので、ゆっくりとドアを開け中に入った。 カーテンの音を立てないようにそっと開けると、マヤが静かに穏やかな表情で眠っている。 「大丈夫そうだな」 速水は小さく呟いた。 ベッドの側に近づくと、マヤの額へと手を伸ばす。 「熱もないようだ」 たいしたことがないので安心する速水。 しかし、彼が触れた手の温もりにマヤの瞼が動き出す。 急いで手を引っ込めると速水は冷静さを装って声をかける。 「チビちゃん、お目覚めか?」 「えっ。・・あたし・・・どうしたの?」 「突然、倒れたらしいぞ」 速水に言われた事実を思い出そうとマヤは自分の記憶を手繰り寄せる。 しばらくして、彼女は「あっ!!」と声を上げた。 「どうした?」 速水は問いかける。 マヤは口元を両手で覆い、真っ赤な顔になるとすぐに俯いた。 「な、何でも・・・ありません」 わずかに聞こえるくらいの小声で彼女は呟く。 生徒に告白され気絶したなど言える訳が無い。 明らかに様子のおかしいマヤの反応を見て速水は何かがあったことを悟る。 しかし、それ以上深く追求することが出来なかった。 気になるものの詮索することが出来ない速水は、苛立ちから自然に嫌味を言ってしまう。 「新学期早々、教師が倒れるとはな。健康管理に問題があるんじゃないのか。今度、倒れたら生徒達の授業に影響が出るだろう。俺が家まで送るぞ」 有無を言わさない速水の態度に迷惑をかけると思ったマヤは、すぐにその申し出を断る。 「いえ。もう大丈夫ですから・・・。一人で帰れます」 マヤは、ゆっくりと体を起こす。 「途中で倒れたらどうするつもりだ?」 彼女の言葉で速水の口調は、ますますきつくなっていく。 速水の表情が厳しくなるのを見てマヤはビクビクしながら口を開く。 「・・で、でも。また、速水先生に、ご迷惑をおかけしてしまいますから」 「どうせ帰り道だから気にするな。幸い、今日は車で来ている。それに帰宅途中に倒れられて、明日、休まれたら俺は君のクラスの面倒まで見ないといけないからな。その方が困る」 全然、引き下がりそうにない速水にマヤは小さく溜息をついた。 「・・・わかりました。よろしくお願いします」 一通りの仕事を終えた速水は、マヤを玄関先で待たすと車を回してきた。 目の前に横付けされた車にマヤは息をのむ。 明らかに高級な外国車だと誰もが分かる真っ黒なジャガー。 マヤは以前からこの車を見かけていた。 駐車場に時々停められているのを知っていたので、一体どの先生が乗っているのだろうと考えていたのだが。 (は、はやみ先生って、こんな高級車に乗ってたの・・・ 教師の給料で買うには無理があると思うのだけど?・・・) 驚きで立ち尽くすマヤを速水は車の窓を開けて助手席に乗るように促した。 「チビちゃん、どうした? 早く乗らないか」 「し、失礼します」 マヤは慌ててドアを開けると静かにシートに腰を下ろす。 彼女は外車に乗るのが初めてなので車内を見渡し洗練されたデザインに見惚れていた。 初体験のレザーシートは座り心地がいい。 室内も黒で統一されている。 趣味の良さと落ち着いた雰囲気の高級車が速水にとても似合う。 そして、スムーズに車を走らせる速水を横目で見ながらカッコいいなと一瞬思ってしまう。 左ハンドルを華麗に運転し、あの容姿で横に座っているのだ。 こんな彼を見れば誰でも恋に落ちるだろうとマヤは思う。 ふと先日会った亜弓の言葉が頭に浮かんだ。 『あなた、速水先生のこと実は気になっているんじゃないの?』 一瞬でもカッコいいと思ってしまったマヤは、ぶんぶんと頭を横に振るとそんなことは断じてないと思い込んだ。 しばらく車内では会話もなく時間だけが過ぎていく。 その重い空気を変えたのがマヤだった。 「速水先生。質問していいですか?」 「なんだ?」 速水は運転中なので前を向いたまま返事をする。 「速水先生は生徒に告白されたことないんですか?」 マヤの質問内容に驚いた速水は、思わずブレーキを踏みそうになる。 彼女から、そんな質問がされるとは思っていなかったのだ。 「な、なにを、言い出すんだ君は?」 彼にしては珍しい慌てた様子がマヤには新鮮に見え口元を緩める。 「いえ。速水先生は容姿端麗でいらっしゃるからそういった経験がおありかと。生徒たちからの告白も多いかなあと思ったんです」 速水は彼女の言葉を聞きながら、愛用の煙草を取り出すと口に銜え火を点ける。 自分のペースを取り戻すように紫煙を吐きだすと落ち着いた様子で話を始めた。 「確かに、無いとは言えないな。バレンタインデーの日には大変な目に遭うよ」 「やっぱり。女生徒たちの速水先生を見る目は、他の先生方を見るのとは全然違いますから」 マヤの指摘に速水はあっさりと言う。 「そんなことはないだろ。俺には同じに見えるんだが」 「速水先生って女心がわからないんじゃないですか?」 「女心? 考えたこともないな」 彼は全く関心がないと首を振り当然のように言い切る。 「だから、冷血漢って呼ばれてるんだぁ」 マヤが何気なく放った言葉に速水は怒りがこみ上げる。 「俺のことを何も知らないくせに勝手なことを言うな!!」 思わず彼は大きな声で叫んでいた。 速水が急に怒ったのでマヤは自分の失言に気付く。 リズム良く話していたから何も考えずに軽い気持ちで思ったことを口にしていたのだ。 「す、すみませんでした」 マヤは彼の剣幕に小さく縮こまると、自分のバックをギュッと握り締め俯いた。 そんな彼女を見て、速水は言い過ぎたと気付くと優しく声をかける。 「チビちゃん。すまない。君に言っても仕方がないことだ。実際、俺はそう呼ばれているんだしな」 速水は苦笑する。 「いいえ。・・・あたしこそ、速水先生のこと何も知らないのに・・・」 マヤは、搾り出すように呟いた。 気まずい空気が漂う車内で二人はしばらく黙ったままだった。 俯いたままのマヤを横目で見ながら速水は彼女が聞きたかったことがあったのではと思い出す。 「さっきの話だが、まだ続きがあるんじゃないのか?」 「あっ。はい。・・・聞いてもいいですか?」 恐る恐る尋ねるマヤ。 「ああ。いいよ」 速水は、穏やかな声で返事をした。 先程、怒った人と同じ声だと思えないくらい優しい声だったのでマヤは戸惑う。 「あ、あの・・・生徒から告白された時はどうするんですか?」 マヤは、こんな質問をして再び怒られるのではと速水の顔色を伺いながら問いかけた。 先程の会話から経験がある彼に聞く方が早いとマヤは思ったのだ。 自分の目の前に突きつけられた問題を早く解決する為に。 「どうするも何も、教師と生徒で何かがあったら不味いじゃないか。勿論、断るよ。それに俺は、お子様には興味が無い」 速水はマヤの質問に呆れた顔をする。 「そうですか。・・・その後、告白された生徒には、どういう態度をとられるんですか?」 「今までと変わらないぞ。当たり前のことだろう」 「・・そうですよね」 マヤは彼の言葉に納得すると、明日から自分も真島に対して変わらずに接することにした。 自分の意見に相槌をうった彼女が何を考えているのかわからない速水は、不思議そうに問いかける。 「しかし、何故そんなことを聞く?・・・まさか、君。生徒に告白されたのか?」 「えっ。そ、そ、そんなことありませんよ!」 速水の指摘にマヤは慌てると両手を振ってごまかす。 彼女の様子に、速水は倒れたことと関係があるのではと勘ぐりはじめた。 「怪しいものだな」 「あ、あたしみたいな新任教師を好きだなんて言ってくれる生徒はいませんよ」 「それもそうだ」 速水は口元を緩め軽く微笑む。 何でそこで、すぐに納得するのよとマヤは悲しくなった。 信号待ちで車が止まった時、速水はマヤの顔をまじまじと見て呟いた。 「君を好きだなんて言う男がいるのなら見てみたいものだ」 彼のあまりにも不躾な言葉にマヤは声を大きくして反論する。 「し、失礼ですね。あたしにだって好きだって言ってくれる人はいます!!」 マヤの脳裏に真剣な表情の真島が浮かび赤面する。 そんな彼女の様子が面白くて速水はからかいはじめた。 「ほお〜。それはお目にかかりたいものだな。今度、紹介してくれないか?」 「な、なんで、そんなことしないといけないんですかっ。絶対に嫌です!!」 マヤは真っ赤な顔で必死に拒否する。 「ふ〜ん。やっぱりそんな男いないんだろう? だから会わすことが出来ないんだ」 「だ・か・ら、どうして速水先生に会わせないといけないんですか?」 「いや、俺は興味本位で見たいだけだ。君みたいなチビちゃんに好意を抱く男がどんな顔をしているのかね」 「もう、いい加減にしてください!!!」 その言葉を最後にマヤは速水と口を利かなくなる。 速水はマヤをからかうのが楽しくてついつい売り言葉に買い言葉を並べてしまったのだが。 彼は自分でも驚いていた。 いつもなら同僚教師と話をしても、こんなにポンポンと言葉が出てくることは無い。 それどころか必要最小限で終わらせるのだ。 しかし、彼女といると自然に言葉が零れてくる。 先程の会話の内容は、子供の喧嘩を思わせるものばかりだったが・・・。 狭い車内でマヤと過ごした空気は一瞬険悪になったものの、その後はとても穏やかに過ぎていた。 (俺は一体どうしたんだ? 何故、こんなにも彼女と関わろうとする? 彼女といると心が安らぐのは気のせいではないのだろうか?) 前回は、酒に酔ったからだと思っていたが、今日は酔っ払っていない。 彼女と関わるたびに速水の中で膨れていく疑問に、彼自身、戸惑っていた。 そして、車内では再び無言のままマヤのアパートに辿り着く。 すっかりご機嫌ななめのマヤに速水は苦笑しながら声をかける。 「ついたぞ、チビちゃん」 「わかってます。ここまで送っていただいて有難うございました」 マヤはシートベルトを外しながら膨れっ面のまま礼を言う。 そんな彼女の表情が可愛くて速水はまたからかってしまう。 「いいんだ。どうせ帰り道だし。楽しい話も聞かせてもらったしな」 「まだ言いますかっ!」 マヤは、ますます真っ赤な顔になり威勢がよくなるとすぐに車から降りた。 「何が原因かは知らんが今日はゆっくり休めよ。明日、来てもらわないと俺が困るからな」 速水はわざと釘をさしマヤの反応を伺う。 「わかりました。必ず、出勤します!!」 マヤは大きい声で叫びながら車のドアを勢いよく閉めた。 「それだけ元気があれば大丈夫だろう。じゃあな」 「さようなら。当分の間、顔も見たくないです」 マヤは顔をそむけ速水と目を合わせないようにする。 「それは、無理だな。チビちゃん。君の前の席に俺は座っているんだから」 ハハハと笑いながら速水は窓から手を上げるとゆっくりと車を発進させた。 マヤはその車を忌ま忌ましげに見送る。 (どうして彼には、いつもからかわれてばかりなのだろう。 喧嘩腰で言い返してしまう自分が悪いこともわかっているけれど・・・。 口は悪いけど心配してくれてたのかなあ。わざわざ送ってくれるなんて) 速水の真意がわからず複雑な気持ちを抱えたままマヤは家に帰っていった。 <第5話 END> 2006年06月11日 written by 瑠衣 |
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